会った瞬間。
うわ、絶対気が合わないタイプだなこいつ。と直感した。
こんなところで気の合うやつが出来るのかといわれたら、そりゃあ普通はないとしても。
とにかく真っ先にそう感じたのを覚えてる。




「…アイオニトス?って、なに」
「一応、神の装備品を構成する物質などと呼ばれているな。架空の物質とされているが、実在している鉱石だ」
そう言うとクラトスという無愛想な男は中に何か入っているであろうオブラートを取り出した。
「…飲め。粉末にしてある」
「…飲むとどーなんの?」
「魔術の施行が可能になる。お前にとっても、悪い話ではないだろう。新しい力が手に入るのだからな」
「まさかまさか副作用とかないよな〜?ユグドラシル様は俺さまみたいな下っ端なんとも思ってないだろうし、しんぱーい」
「馴染むまで、体がだるくなったりもするが、それも短期間だ。特に問題はない」
「…あー。そういや、あんたも飲んだんだっけかこれ」
「そうだ」


クルシスに来たばかりの頃はこの男が側にいる事が多かった。
それはクルシスにいる天使の殆どが実はハーフエルフだったりする事も関連してきているんだろう多分。
基本的にハーフエルフは人間が嫌いで、人間もハーフエルフが嫌いだからな。
俺さまは人間。そんで知識が豊富にあり、自らも魔法を使う事の出来るこいつも人間。
都合がいいから、まぁ当然の話だな。

「魔法な〜。確かに便利っちゃ便利だけど」


―ハーフエルフとお揃いかよ。…胸くそが悪くなる。


「お前がどう思おうと命令だ。飲め」
「へいへい」
水で飲み込もうと思い、回りを見たのだが、どうやらそういった用意はなかったらしい。
気のきかねー奴。
そう思いながら、アイオニトスを飲み込んだ。


「…あ。」


途端にマナが体中に染み渡っていく感覚に襲われる。
いままでに体験したことのない。強烈だ。

…頭がクラっとした。
倒れてしまいそうだこのまま―


ガシッ。



気がつくと倒れこもうとしていた自分をクラトスがしっかりと支えていた。
…うわぁ、俺かっこわりぃ。

「…こうなる…んなら、ちゃんと…言え…よな…っ」
「すまない。大分昔の話でな。個人差もやはりあったようだ。素直に横になっていろ」
「言われなくても…」

…やっぱりなんかこいつは嫌いだ。
見下ろしてきてるから、うざったい前髪の影響を受けずに表情がよく見えた。


―いつもなんでもないような顔しやがって。
俺が何してもきっとこいつはそういう顔のままに違いない。
…絶対そのすかした顔、ぶち壊してやる。
と意識が薄れていく中、なぜか決意してしまった。







「魔法の扱いに慣れたいし、あんたの責任だからおとなしく俺さまに付き合え」

唐突に背後から登場したかと思ったら、堂々と微笑みながらそう言われた。

「…テセアラの神子。私の責任というのは…」
「あの後、慣れるまでそーとー辛い思いしたからな〜。あぁ、俺さまってかわいそー!それにどうせ報告終わったとこだろ?」

…確かに。ちょうどミトスへの報告が終わって出てきた所だ。
それを狙って来たに違いない。


「…それと。殺気を隠さず、背後から近づくのも止めとけ。刺されたいのか」
今、そのような経過を通して、自分はゼロスの喉元に剣先を向けている体勢をしていた。
「や・だ・ね」
しかしそのような状況でも、やはりヘラヘラと笑いながら、相手は断ってきた。
「ていうか。なんとなくあんたの事だから、背後に立ったらこゆ事するかなーと思って最初からやってんだし」

見越した上での行為か。ため息が出た。一体何がしたいのか訳が分からない。
「…なぜ」
「あんたそういうの嫌がりそうだから」

そう、満面の笑みで。
―本当に刺してやろうか。


「おっと、マジで刺しちゃったりすんなよ?俺さま神子さまだったりするし、有能で使える駒だから殺したらあんたらが困る話だし。てか、寸止めくらい出来ると思ってやったんだから、いいじゃねーか別に。まぁ、とにかく付き合えや」
「…おい」
しかし文句を言い終わる前に、ゼロスは剣を抜き、剣をはじき返していた。
「初心者だから、お手柔らかに頼むぜ〜」
そして今度はゼロスが自分に剣先を向ける。
また深いため息が出た。
そして改めて剣を掴み直す。

「―やるとなったら私は手加減をしない」
「うげぇ、この鬼!」
「お前が先に言い出した事だろう」


…結局、折れてしまった。






あれ以降、ゼロスは自分の隙を狙っては近づいてくるようになった。
しかも毎回背後から。

「…あんたなぁ!魔法の練習つってんじゃねぇか!」
「…甘い。わざわざ詠唱を待ってる敵などいる訳がないだろう。頭を使え」
「クソ…神経、使うんだ、ぞっ…!」

そして大抵、手合わせに付き合わされた。
なぜ、毎回私につっかかってくるのか。
ユアンを筆頭に他の者は面倒事に関わりたくないとばかりに近寄ってくる気配は微塵もない。
…なぜ。






その日もいつものごとく、ゼロスは現れた。


「…お?なんだよ、今日は剣は向けないの?つまんねーの」
「…無駄な労力だからな。いちいち反応している方が馬鹿らしい」
それにその時はちょうど座って剣の手入れをしていた。

「ふーん?とうとう慣れてきたか?」
「いい加減慣れない方がおかしいだろう、これは」

この男にイヤミは効かないとわかりながらも出てしまう。
決して分かっていないのではなく、理解しつつも全く動じない。
むしろそれを楽しんでいる節がある。
現に今も、ゼロスはそれを聞くと嬉しそうにニヤニヤとした笑みを浮かべている。

「じゃあ俺さま、これからはあんたの事好きな時に刺せちゃうなぁ〜。楽しみv」
「…殺意があったらすぐ気づく。その時は容赦なくお前を斬るぞ」
「ほー……じゃー、これは?」


軽く嫌な予感はしていた。この神子はいつもロクな事をしないからだ。
しかしさすがに予想外だろう。


ギュッ


いきなり後ろから抱きつかれるとは。


「…」
「あれー、反応なし?」

…反応しなかったのではない。
どう反応していいかわからず、固まってしまっていた。
ゼロスの気配が近い。すぐ耳元から声が聞こえてくる。

突如、グシャグシャグシャと頭をかき回され、髪が散々な事になった。
そこでようやく体が反応し、後ろを振り返る。
ゼロスはすぐに体を離し、距離を取って、一言。

「よーく似合ってるぜ〜それ。特に今みたいにポカーンとしてる顔にはなー」

またニヤニヤと笑いながら。本当に楽しそうな顔をしていた。
「今日は手合わせはいーわ。あんたのマヌケな顔が見られて満足だし。じゃなーおっさん」
くるりと後ろを向き、そのまま手をひらひらと振りながら、ゼロスは去っていった。




…あれは日頃、どうやら自分に嫌がらせをしたがっているという事は分かっていた。
―でもあれは全く分かってない。
それは構って欲しいと強請っている犬と殆ど変わらないのだという事を。



「間抜けな顔…か」

確かにそう言える。
ただ一番お前が見たがっていた顔は、振り返った時じゃなく、抱きついてきた一瞬だった。
思わず反応出来なかったあの時。

「…重症だな、これは」

ふ、と気づくとなぜか笑みがこぼれていた。










クルシスでのゼロス、クラトス話。れっつ捏造。
クラトス自覚話って感じですね。クラゼロです。ゼロスは無自覚。

実際はプロネーマがゼロスの担当みたいになってたっぽいけど。
人間同士の方が問題ないんじゃないかな…と私は思う訳です。入ったばかりの頃なんかは特に。


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