ゼロスは男の人だけど、綺麗って言葉が似合うと思うの。


「ゼロス」
「うん?なーにー?コレットちゃん」
「ゼロスの髪って綺麗だよね。うらやましいな」
「なーに言ってんの!コレットちゃんの金髪のが綺麗でしょ〜。光が当たると、キラキラすんのとか。俺さまサラサラしてる髪ってちょっと憧れだし。くせっ毛は手入れもめんどうでさ〜」

ゼロスはそう言ってたけど、あたしは紅い髪なのも、くるくるしてる髪なのも綺麗だなぁって思ってたの。
ふわふわしてて、すごくさわり心地が良さそう。



そう。あたしの中での彼のイメージはふわふわだった。




「コレットちゃーん」
「なぁに〜?ゼロス」

見るとゼロスはいつもふざけて笑ってて。
でも、あたしにはなんだか貼り付けた笑顔という感じが拭えなかった。
一緒にいて、段々と本当に笑ってくれてるんだなって思う時も増えてきたけど、なんだかそれがゼロスの癖になってるみたい。

…少しだけど、その気持ちはあたしも分かった。
シルヴァラントでは再生の神子として、期待のまなざしを向けられる事が多かったから。
その気持ちは嬉しくもあったけど…少し、重い時もあったから。
無理に笑ったりする癖直せってロイドに言われたりもするけど、やっぱりそういう笑顔になっちゃう時ってある。
本当に笑いたいと思う気持ちとは裏腹に。
どうしようもないの。



「…ねぇ。羽、ちょっと出してみてくれる?」
「いいよー」

あたしはいつものようにパッと羽を広げた。
光の反射を受けて、この羽は様々な色を見せる。

「…うん、やっぱ、綺麗だな。これ」
「そう?…変って思わない?」

私は以前ロイドに聞いた事をゼロスにも問いかけた。
この言葉にゼロスは少なからず驚いたみたいだった。

「変って?コレットちゃんのイメージにはピッタリって感じ。ほんと…」


そう、羽を見つめながら。



ゼロスはなんだか地に足がついてないみたいな不安定さが見え隠れしてると思う。
あたしみたいに羽がある訳じゃないのに。ふわふわと。

「…改めて羽が見たいなんて、変なゼロス」
「だって、コレットちゃんの羽、綺麗だし。見たいなーって思ったんだよ。…また見たいって言った時は見せてくれる?」
「いいよ。約束する」
「お、俺さまとコレットちゃんだけの約束な」


気がつくと、ゼロスはみんなの列から離れて、1人で空を見つめてる時があった。
あの時のゼロスは、ただ空を眺めていた訳ではないと思う。
その瞳は空を映していながら、別のものを追おうとしているようで。
…どこを、なにを、見ようとしてたんだろう。
あたしには想像も出来ない。

彼がもし、羽を手に入れてしまったら…ゼロスがずっと見つめてたどこか。
きっと、一度行ってしまったら帰れない場所まで飛んでいってしまう気がして。
…だから約束は絶対守ろうと思ったの。
ゼロスは羽を羨ましがってるように見えたから。





「♪〜…」

夜。外は凍えるほど寒かった。
歩いている人なんてもう殆どいない、フラノールの街のほんの一角で、あたしの歌声が響く。
なんだか眠れなくて、宿のベランダに出て、出来るだけ小さな声で、歌ってた。
声を出す度に息が白く舞う様子は、おもしろいと思う。ここに来たのは初めてではないけれど。


「お、その歌。賛美歌だよな?」
「あ、ゼロス。ごめんね、うるさくなかった?」
「全然。…やっぱテセアラのとほとんど変わらねぇみたいだな。すぐ分かった」
「あ…そうだ、ゼロスも少しだけ、歌ってみてくれない?」
「…へっ、俺さま?!」
「うん」
「んな急にコレットちゃーん…。昔は歌わされてたけど、最近は歌う機会なんてめっきりなくなったしさぁ」
「…でも、あたしは聞きたいな。ゼロスはきっと歌がうまいでしょ?あたしには分かるよ」
「…コレットちゃんにそこまで言われたら、歌うしかないっしょこれは…」

なかなか男の使い方がうまいなコレットちゃんは…。とゼロスが呟くのを聞いて、ふふ、と少し笑みが零れた。
本当は、ゼロスが歌ってたのを一回だけ聞いた事があった。
それは、ゼロスが1人で夜に宿の外に出ていた時で、それも小さな声だったけれど。
今のあたし、みんなよりもすごく耳がいいから。
…だからお世辞じゃなくて、ゼロスは歌が上手なんだってあたしちゃんと知ってた。
でも、その事はあたしだけの秘密。


「コレットちゃんが歌ってたのと同じ曲でいいよな?」
「うん」
「じゃあ。…♪〜」



―やっぱり前に聞いた通り、ゼロスの歌は上手で。


「…おしまいっと。どだった?コレットちゃん」
「すごく、すっごくきれいだったよ。…ね、ゼロスは…今みたいに、教会でも歌ってたんだよね?」
「ん、そーだけど。どーかした?」
「…すこーし、ゼロスに夢中な女の人たちの気持ち、わかったよ」
「えー?!ダメだよコレットちゃん!!コレットちゃんにはロイドくんがいるんだから!つかロイドくんにはコレットちゃんしかいないんだからさ〜。気持ちは嬉しいんだけどね、俺さまも」

綺麗な歌声。
そして…どこか寂しげな歌声。訴えかけてくるように胸に響く。
…あんな風に歌われたら、女の人たちが放っておけるはずなんか、ないよ。ゼロス。

「うん。…分かってる」
「そ?なら安心したぜ〜」


ゼロスの言うようにあたしにロイドがいるのなら…一体ゼロスには誰がいるんだろう?


「…だいじょぶ?」
「? 何が?」
「―ゼロスは。ゼロスはだいじょぶなの…?」


誰もいない寂しさ。誰だって耐えられるはずないのに。


「……俺は、大丈夫だよ。コレットちゃん」

ゼロスは優しく微笑んで言った。その顔に信じたくなるけれど、でも、そうじゃない。



―ゼロスはうそつきだよ。それも、とっても優しいうそつき。
…もっと甘えてくれていいのに。

だけどそんなこと言う資格、あたしにはないんだ。
だって、ゼロス自身が見つけた人じゃないと意味がない。
誰か、早く。彼が飛んでいかないように。ここに、留めさせて。


でも、あたしは気づいてしまった。
なにもかも悟ってしまったような表情のゼロスからは、以前思っていたような不安定でふわふわとした印象はいつの間にか消え失せていたことに。
まるでもう、迷う必要なんてなくなったかのような。



もう、羨んだ場所へと飛んでいくための羽は手に入れてしまったかのような。












ゼロス天使化ルートでみこんび話。神子二人とも好きですよー。
恋愛感情ではないけれど、この二人だけで共有出来るものとかあったりするんじゃないかなーと。
色んな意味で救いのない話ではある。分かっていてもコレットにはどうする事も出来ないから。

この文章らは、小説というよりも漫画のネームの感じで書いていたものなので
台詞が多かったり、場面描写が少なかったりと、読みづらかったらすみません。少しは直してるんですが。
なんだかもう漫画にする機会を損ねてしまったのでこんな形で出してみたという。


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